大理石を彫る

新しい人

この続きを今なら彫れるような気がして、今日アトリエの作業台の上に置いた。裏には2006と刻んであるから12年前の仕事だ。トワンがうちにやって来た明るさがあたりに広がっている。今じゃこんなに思い切った構図は取らないだろう。

子供をいざ作ろうとした時はなかなか出来なかった。生理が数ヶ月止まって、もしやと期待して産婦人科に行って診てもらった。妊娠してませんという診察にガックリした顔をしたら、先生が「なんだ〜」(堕胎じゃなかったのか)とほっとため息をついて、「じゃあ注射打ちましょうか?」と続けた。私は慌てて断ったが素直に受ければよかったかしら。いざとなると後ろに退いてしまう性格はどこで覚えたのだろう。今内的意識をblitzで鍛えている。今度こそ本当の新しい人を生む覚悟で。(K)

Dscf9343

|

雲の門

空から落ち来る線と、地上から伸びた線。ふたつの柱のシルエットがどこから見てもスッと美しく伸びて嫋やかなようにと、今夜も荒砥でひたすらゴシゴシ削った。地面に食い込む根っこの極みまでしっかり磨いたら、何とも言えず気持ちが良かった。すぐ横に寝そべっているトワンとの距離がいい感じなのだ。こういうことの一つ一つで構成されているような生き方をしようと思う。(K)

Dscf9329

|

背中の木

この向こう側には天女の腕がある。ふわりと膨らんだ袖のシルエットに綺麗に木の枝が収まった。これでよし。幹が動きのないただの棒杭にならぬように気をつけねば。気がついたこと、思い浮かんだことをどれも見落とさずに実行すれば美しいものになるだろう。背中を彫るのは面白い。誰かに見せようとか他人に気に入られたいと思わずに済むからだ。適当にやるか、徹底的にやるかは私の勝手。自由な状態にあってはじめて豊かに注がれるものがある。(K)

Dscf9309

|

月と軍手

今夜も月のまわりに砥石をかけた。途中で休憩しようとふと右手を見たら、軍手の指に穴が空いていた。親指を除く4本の指の第二関節の表側だ。こんなにきれいに穴が並んでいるのを見たのは初めてで、ちょっと驚いた。砥石を持っている指先なら分かるけれど、手の甲の側だもの。知らぬ間に石に触れてだんだん布が劣化していたのだった。

やっと月が空に浮かんだ。形の必然を求めて苦労した甲斐があった。(K)

Dscf9288

|

雲の木

梢に砥石を当てたら、雲に包まれた月のように見えて来た。地上に降りて根を張った雲の木だ。そこから溢れる光が線になったり膨らんだりしながら落ちて来る。

ずっと以前に見た夢を思い出した。場所は未明の山小屋で皆が出発の準備をしている。ザワザワとした土間を通って外に出てみると、まだ暗い庭先からニョキッと大きな木が生え出ていた。一晩で現れた巨木の先を見あげようと暗い空に顔を向けた。その大きさに驚嘆。上の方は暗くてよく見えないが、確かに天上のどこかには行けそうだった。空に向かう傾斜は人が登れるギリギリの急角度だった。面白い夢はスケッチするようにしていたので探せば見つかるだろう。黒いノートのどこかのページだ。(K)

Dscf9275

|

1分間の猶予

今朝起きる直前に誰かの声で、
「この旅が終わったら、全てのことに常に1分間の猶予を与えよ」と呼びかけられた。
どうしてかと尋ねると、
「それは都市の時計に負けない為であり、あなたのひどい躊躇に勝つ為だ」と言われた。声だけでなく一部の文字がはっきりと空間に浮かび上がった。それは『猶予』と『躊躇』という文字だった。

時間というものは本当には無いものなのだ。行動の自由が奪われた瞬間から始まった。約束と契約が人の体に時間を刻みつけた。もう一度主体を取り戻すためにたった1分立ち止まる。奴隷解放だ意識の革命だ。(K)

Dscf9230

|

梢の月

単調な起伏の連続を打破すべく今夜は腰を据えて取り掛かった。一つ一つの塊を波打たせる為には溝を深くするだけじゃダメで、溝の中に光が溜まるように別の帯を刻むことにした。それは銅版画や最近知ったロボットダンス(dub stepと呼ぶらしい)の克明な線描や動きに影響されてのことだ。計算され予想して作られたものはつまらないと思うようになった。予知せず、ただ見つめていると現れて来るものに正確に反応して彫って行く。そういう時には疲れを感じない。あまり長く彫る必要はない。もう少し彫りたいなあと思ったけれど、道具を置いた。少し余力を残してblitzをやった方が良い。(K)

F1000083

|

月を包む雲

今朝早く起きた。満月がちょうど山に沈むところだった。雲に隠れて輝いて、また現れたその姿のなんと美しかったことか!月と交代するように空はだんだんと青さを増して行った。

耐性が出来た頃に認識が訪れる。思い出さない方がよいものはそのままずっと隠されているものなのだ。人間の意識とは不思議な構造の中に格納されていて、いつでも引き出せるようになっているらしい。必要な時に充分な力の用意が出来ていれば、パパパッと経路が繋がって理解出来てしまう。真実が突然解っちゃうのだ。もしかして、これが内的な人の覚醒と呼ばれているもの?(K)

Dscf9205

|

満月の元旦

大晦日も元旦も夜になってアトリエに出かけた。今夜の月はスーパームーンなんだそうな。オリオンを従えて冴え冴えと輝く月を見上げ、青白く発光しているように見える野原や山や森を見渡した。月の軌道が高くなる冬のこの情景を眺める度に、白い人が現れた夜を思い出す。真冬の月には何かを現出させる力があるのじゃなかろうか。そこら一帯に満ちているものがあるように思えて、車に乗り込む前にしばし佇んでいた。(K)

Dscf9164

|

光の柱のシルエット

光の柱のシルエットを少しずつ削り落としている。注ぐ光が男の体を持ち上げているようにしなくてはならない。輪郭をきっちりと刻むと形は浮き上がって見える。形そのものよりもそれを取り囲む面を厳密に抑えること。そうすると、ザラザラとした形は内部へ向かって動き出し、さらに輝く。シルエットを研ぎ澄ませば、もっと軽やかになるはずだ。

今夜も夕暮れ時に疲れが出た。ストーブの傍のソファで紅茶を飲みながらしばし微睡む。その後は一気にオリオンが天頂に登る頃まで集中。外に出たら月が明るかった。(K)

Dscf9159

|

より以前の記事一覧