2本の木立

空を丹念に磨いている。月の縁や雲の間に砥石をかけるのが難しい。砥石はだんだん角が取れて丸くなるから深い溝の底になかなか届かないのだ。砥石の当たり方がムラになるから細かいスジが残ってしまうのをコリコリしつこく擦り落としていく。足元に石と砥石の両方から出る粉が降り積もるばかりで、ときどき刷毛で払い落としては、ゆっくりとしか変わらない石の色を眺めて過ごす。
今日も風がよく吹いていた。爽やかな空気がやさしい月を引き出した。外に出たらレリーフとは逆向きの月が西の空にぼんやり光っていた。雲が広がっているようだ。今夜は星はなし。(K)
今日は爽やかな風がずっと吹いていて気持ちが良かった。霊的な風というのだろうか、庭仕事をしていてもぜんぜん疲れない。「もう終わりにしようよ」と声がかかって中に入ると、ガハクはまだ雑巾掛けをしていた。
目の中には幾重にも繰り返される輪があって、それをだんだん小さくそっと外側から刻んで行く。今夜やっと瞳の中にキラッと光が入った。(K)
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部分的にあちこち磨いては彫り直している。途中で発見する美しいものを拾い上げながら進んで行くのが最近のやり方だ。空の縁取りのようにたくさん並べてあった星は、雲に変わった。小さく消えそうになっていた星が、今夜7つ復活。夜明け前の星だ。(K)
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彼の掌から風が湧き起こった。小さなつむじ風だ。ヨブが神に「お前は風がどこで生まれるか知っているか」と問われて沈黙する場面がある。今の私なら「あなたの手のひらから」と答えよう。考えることがさらに進んで想うことに集中した時、そこからは甘い香りが立ち昇る。それが風になるんだ。
見えたものを石に刻むには勇気が要るけれども、ゴッホは描く前から描き上がった絵が見えていたらしい。「それが何枚も何枚も見えてごらんよ。いくら命があっても保たないよ」とガハクが言う。私は彫りながらだんだん見えて来る形に従うだけだから大丈夫だ。ゆっくり進むしかないからきっと長生きできるだろう。こういう状態を安息日と呼ぶのかな?(K)
毎朝スモモの梢の中に小さな緑の実を探す。ツヤツヤの粒が日に日に大きくなっている。長年居着いていた虫がやっといなくなった。小豆くらいの硬い殻が幹や枝にびっしり付着していた。あれはきっと虫の冬越しだ。コリコリ手で落としてもダメだったから薬を噴霧し続けて2年、この春に堆肥もやったからか、今までに見たことがない茂り方で一枚一枚の葉っぱが大きい。花が実になるまで何年もかかった。(K)
ときどき指の先から砥石がぴょんと弾けて地面に転がり落ちる。途中で雨の音が激しくなったが、雨漏りはしなかった。トタンの合わせ目に塗り付けたシリコンシーリングが効いたようだ。
ミケランジェロよりももっとずっと古い時代の人たちと話をしている。磨き難い窪んだ場所に浮き彫りにした人の輪郭はどうやって研ぎ出したのかと。砥石と鑿だけで出来るはずだ。
ストーブから外した煙突に被せてあるビニール袋が、外で風が吹く度にフカフカ音を立てた。大気は大きな肺のようだ。夜の8時、雨が止んだ隙を狙って自転車で帰宅。国道脇に大きな水溜りが出来ていた。(K)