大理石を彫る

雲の階層

海と空の境界ははっきりしている。そして雲には階層がある。低い雲は重ったるく、中間の雲は愛らしい。高層を流れる雲は爽やかだ。

今日ぞうけいに来た子供たちに
「海の上に浮かんでいる雲を描いてごらん」と言ったら、ぷかぷか空に浮かぶ羊雲を描いていた。もっと夏らしい入道雲にして欲しかったのだが、まだイメージがないらしい。子供は自分のサイズの雲を持っている。怖いものや大きなものをじっと見つめるには、大きな安心に包まれた静かな状態が必要だ。(K)

Dscf7938

|

ピアニストの島

水が彫れるようになったのがとても嬉しい。波打ち際の水が足に触れた時の冷たさを想いながら探っていると、出て来る形がある。ちらっと現れた美しい真実を逃さないように捕まえる。そしてそこから広げて行く。ピアノの重さ硬質さは弾き手の感情をがっちりと受け止める強さと柔らかさが必要だ。

あの美しいバッハの旋律を奏でたグレングールドが、音楽は情事であると言ったのだそうだけど、どういう文脈の中で語られたのか知らないから用心しながらも、直裁で驚いた。裸の心を音にも言葉にも表す人の清らかな勇気に感動する。(K)

Dscf7936

|

トワンのスフィア

トワンの周りを彫っている。足の間、尻尾の隙間を流れる風の動きが見えて来て面白い。丹念にさらっては砥石をかけている。そこにはやわらかで清涼な空気が広がっているように思えるのはトワンの徳だろう。誰にも愛されながらも自由に振る舞えるというのは人間には有り得ない。

今日は無意識の会話というのを考えていた。表と裏、外と内が一致していれば一気に語り、突然黙しても通じるはずだ。とすれば、思ったことはすでに相手に知られている。そこは無意識界だけれど真実が動き出したら誰も止めようがない。美しいものは強いんだ。(K)

Dscf7924

|

船底

海に没している山裾を探りながら彫っていたのだけれど、船底のように丸くなって海に浮かんでいるということになった。急に軽やかな気持ちになった。激流がとおめいなまるい球を前に押し出しているように見える。動き始めたようだ。

明日上海から発送された新しいMacのパソコンが届く。
「きっと驚くよ」とガハクが言う。これを機会に、『となりの戦車隊長』『母のゆめ』の原稿をKindleに上げて出版してもらうことにした。ひとつひとつやって行く。その日は山が動く。(K)

Dscf7911

|

謎が解ける時

やっと人や動物のそれぞれがくっきりした美しい形になって、まわりの空間を見回す余裕が出て来た。海と湖の違い、水と空の触れ方など、いろいろ試している。今日は、とおめいなまるい球を包む虹が海に吹き込む様子を彫った。

もう少しでこの物語の意味が理解できそうだ。(K)

Dscf7898

|

湖底まで届く音

湖底まで届く光の棒を彫りながら、これは音の棒だと気が付いた。ピアノを弾く人を包んでいる音の隔壁。音を出している主体は自らが出す音で守られる。

学生の頃いつものように朝から外で石を彫っていると、「あゝやっぱりあなたの音でしたか」とF先生に声をかけられた。駅に下りて公園を歩き出したら聞こえて来たそうだ。いい音だったのは、きっと鉄ノミを使っていたからだろう。あの頃でもフイゴで火を起こして鉄を鍛えてノミを作る人はもういなかった。女の私の手や肩には鉄の道具の方がいい。切れ味がよくて優しいのだ。的確な方向で打てば大きくハツルこともできる。

深い湖底のやわらかな陰影を鉄を薄く叩き延ばした平ノミでさらった。ピアニストの足元に広がる空間の深く蒼く澄んだ水の色が出せた。(K)

Dscf7878

|

足の裏を照らす月

ガハクが面白いニュースを見つけた。足の裏の話だ。
兄と妹の二人のうち、いつも蚊に刺されるのが妹ばかりなのを訝しく思った兄が、その原因を突き止めるべく研究を始めたのだそうな。二人が小学生だった頃から何年もかかって、ついにその原因は足の裏にあることを発見した。

最初は二人の衣服を並べて置いてみたのだそうだ。帽子やシャツに始まりついに妹の靴下にばかり蚊が群がるのに注目した。で、足の裏の雑菌の数を調べたら、妹の方が多かった。足を綺麗に洗うようにしたら寄り付かなくなったという。蚊は汗や体臭に反応するのかと思っていたが、そこに生息する菌の出す臭いが好きらしい。

天使の仕事は、例えると体を支える足の裏のようなものだという話を思い出した。よくフィットしてよく似合う靴を履いている美しい足が浮かんで来る。その夜は丁寧に足の裏を洗った。だからかどうか今日は蚊に刺されていない。虫除けスプレーは使わなかったのに。

水の中に漂う月を彫り直した。(K)

Dscf7867

|

雲の羽

形を彫った後にもう一つ先に峠が見えてくる。そこまで行くのはしんどいのだけれど、ゆっくり歩けば誰でも行ける場所だ。確かに誰でも行けるはずなのだけれど、踏み跡がない。ずいぶん長いこと誰もここを通らなかったようだ。草だらけで石ころが浮いている。羽の輪郭を決められるのは、中の膨らみがつかめたからだ。やわらかさを知っているからだ。トワンの背中やお腹や尻尾のこと足の裏を毎晩洗ってやっている人ならば、綺麗な羽を彼に与えてやれるだろう。最高に白くて輝く雲の羽。毎朝ガハクと散歩するとき付ける羽。(K)

F1000048

|

海と山の境界線

今日は月光にチラチラ光りながら揺れる海と、海底まで透き通って見える海と、そこに滑らかに入る山を彫っていた。山を磨くと、月の人たちの足先が際立って来る。

トワンの形がだいぶすーっとして良くなった。雲の羽も似合って来た。これがあると浮かぶようにして軽く歩けるのだ。

この頃斜め横跳びを筋トレメニューに入れている。自転車でバランスを失った時でもパッと足が出るようにバネを鍛えている。(K)

Dscf7819

| | コメント (0) | トラックバック (0)

左手の役目

右手の方は気に入った形になったのだが、左手の方が遅れていた。線彫りのニュアンスが魅力的で一旦出来上がったものをなかなか壊すことが出来なくなっていたのだ。いざ覚悟を決めて彫り直し始めたら、ここまで数時間かかった。右手は力で左手は掬うのだ、というようなことを考えながら彫っていた。表情が違えば仕事も違うし目的が違う左の手がやっと美しくなったところで、休憩。

ときどきザーッと来る変わりやすい天気だった。ふと思い立って外に出て、野原に突っ立っている蛇口を捻ってみたら、久しぶりに水が出た。明日こそラッキョウを掘り出してじゃぶじゃぶ洗おう。(K)

Dscf7801

|

より以前の記事一覧