大理石を彫る

形の品格

スーッと香るような形があって、それは丁寧に探しているうちにやっと出て来ることもあるし、手をかけ過ぎて途中で消えてしまうこともある。でもそこで決定的なのは、嘘のないこと自由なことだ。やってみて後悔したことはない。

この彫刻も完成させずに10年も放っておいたが、知らないうちに樹木の動きが見えるようになっていた。月の光が幹に映って梢の影がチラチラ揺れている。(K)

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透過する月光

垂直の壁に向かってコツコツと刻んで行くのにだいぶ慣れたけれど、3時間が限度だ。家に帰ってケルビム一家も磨きたいので今夜はここまで。道具を置いた。

シンプルな形の連続の中に不思議な有機性を持たせる為に、平ノミであちこちニュアンスを付けながら丁寧にさらっている。縁に飛び出そうとする光を輪郭線のぎりぎりのところで留める。溝を彫って丸みの中で光が遊ぶようにするのだ。月だけが真剣にそれを眺めている。

今夜は木枯らし一番が吹き荒れている。東の空からオリオンが出て来た。星が輝く季節になった。(K)

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光る梢

月光に照らされた梢の彫り方が閃いた。コツコツと手で彫っているからこそ見つけた方法だ。光の動きが美しいならば凹凸の理屈なんかすっ飛ばせばいいのだ。裏側から照らされると縁が際立つ。枝がテラテラと光っている。面白くて仕方がない。こういう時がたまに訪れるから彫刻はやめられない。死ぬまで、いや死んでも石を彫っているだろう。白く光る大理石大好き。(K)

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地山(ヂヤマ)

彫刻を学び始めた頃に教授に言われたことをときどき思い出す。
「顔ばかりいじっていないでヂヤマをしっかり作りなさい」と。(ヂヤマとは人物が立っている足元の地面のこと)確かに足元がすっきりするとその上にあるものの品格が上がって見える。

子供の頃に母が笑いながら話してくれたことを思い出す。
「今日はいい靴を履いていたから同じ店員だったのに対応がぜんぜん違っていたよ」と。他人を着ているものや履いている靴で判断するところはさすが洋装店の店員だ。

ガハクとのふたり展をやる時にどの服を着てどの靴を履いていこうか迷っていたら、
「いつものスニーカーでいいよ。気取らないほうがいい」というので、赤いバスケットシューズとジーンズにした。展覧会の期間中に靴が擦り切れてちょっと寂しい思いをしたが、まあそれで良かった。

戦車ゲームのblitzのすごいところは、これほど高度なゲームなのに最後までお金をかけないでも遊べるところだ。課金してやっている人たちと同じことができるシステム。新しい世代が国境を越えて共有して遊んでいるプラットホームがあることに感心している。
「カネにならないことはやらないような人はやっぱり貧相だよ」とは今夜のガハクの言。

ヂヤマを粗い砥石でゴシゴシ削り落として少し離れて眺めてみたら、スーッと香るように美しかった。手でやることでしか届かないところがある。歩いてしか辿りつけない場所がある。(K)

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石の摂理

今夜はマリアと犬の間の狭い空間を根気よく磨いた。足元に黒い縞模様が浮かび上がって来て、波が押し寄せているようにも見える。

石の塊を割ってこれから彫り出そうとする時、どの面を底にするかいつも考える。模様が顔を横切らないように、逆に純白で美しい色がいちばん大事な所に来るようにと石の摂理を読む。太古の昔に堆積して熱変性を起こした石の中には秩序がある。それに逆らわないように彫り進まねばならない。

このUSAから来た大理石はとても癖が強くて、何度も天使の頭や自転車の輪の位置を変えねばならなかった。それでもやっとここまで来た。足元を洗う波の祝福の潮騒が聞こえる。(K)

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支える木

木が人のように見えて来た。両足を踏ん張って彼を引き上げようとしている。背中が触れている辺りの奥まった場所の形が大事だ。梢の触れ方は柔らかく、枝は太い血管のようにダイレクトに連結されなくちゃいけない。慎重に彫り進めるために今夜はここまで。ゆっくりとやるのが良い。内的流入に従ったペースを保つのだ。(K)

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寄り添う犬

トワンのまわりに空間が欲しくて、辛抱強く少しずつこすり落とすようなノミの当て方をして広げていたら、急にスッと柱と犬との間に距離が出た。それまでは光が乱反射して形が判然としない場所だったのだが、ようやく半調子で影が美しい場所に変化した。彫り難い場所の奥まった向こう側には、もうひとつ別の世界があるということだ。

今日は尻尾の後ろの光の柱と男の脚の間に柔らかな草むらを作った。(K)

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メランコリア

デューラーの銅版画に『メランコリア』と題された作品がある。天使が物想いにふけっている姿だ。トワンがときどきそういう顔をしている。よく似ている。

地面に接する極みをきっちりと彫ったら、木も犬もスッと明かるさの中で際立って来た。両側にそそり立つ柱が天界の門のように見えた。ロダンの地獄の門よりこの方がずっと素敵じゃないか。(K)

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独りの月

月の周りは雲のように自由に彫りたいと思うのだが、しかしこれがなかなかピタッと決まらない。深くえぐって光がたまる部分をあちこちにこしらえた。そうしたら、月よりも周囲の方が眩く活気立って来た。

道具を片付けて汲み置きのバケツの水でメガネを洗いながらふと見上げたら、高い窓から丸い光が差し込んでいた。雲ひとつない藍色の空をひとりで照らす月は、寂しく厳しく美しかった。(K)

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森の月

夜の森の入り口で犬を放して戻って来るまで待っていると、鈴の音が山道を駆け上がり、そこらをそぞろ歩いて、しばらくするとまた音が近づいて来る。鬱蒼とした森の下草の軟らかなシダ類の上を子鹿のように走り回っていたトワンの姿を思い出した。

この彫刻の表に人間がいて、裏には犬がいる。表に雲を彫った。そのちょうど裏側が木の梢になっている。表裏が一体となることを夢見ている。(K)

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