大理石を彫る

裏側から見えるもの

グラインダーで後頭部の髪の量を減らした。ハンマーの振動には耐えられない細さになっている所にだけ使う。この石は柔らかくて彫りやすいのだけれど大理石の中では脆い方だ。久しぶりの機械仕事で左脇腹の筋肉がピクピクした。機械は体に堪えるようだ。手作業に戻ったら突っ張りはやがて取れた。

裏側を彫っている間は、ほとんど表に回って見ることはない。今夜は最後に石の粉を払い落としてグルリと180度回転させ、3人と1匹の顔をしばし眺めた。皆凛々しく微笑んでいるのが良かった。いい彫刻になって来た。(K)

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愛しいもの

樹木と水の柱の間にトワンを彫り始めた。男の腰の辺りの裏側にちょうど良い石の量が残っていたので、寝そべっている姿にした。空間の構成やなんかもうどうでもいい。彫りたいものが浮かんだら素直にまず彫ってみている。削り落とすのはいつだって出来るのだから。それよりも実は、面倒臭がって降りたものを無視することが多いのだ。そうやって霊感はどんどん遠のく。ただ愛おしいという情愛に降りて来るもの、料理の味も最後はそれに尽きる。(K)

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根幹

男が寄りかかっている木の幹は表からは見えないけれど、大事なところだ。根っこから幹にかけて大きなうねりが出せればいいのだけれど。

今日は鞴で火を起こして、ノミ作りをした。コークスをケチらず送風を強めにしたから、しっかり硬めに焼き入れ出来た。彫る手を休ませ耳栓を外すと、外の暗がりからコオロギの合唱。今夜は鹿の声がときどき響いている。(K)

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樹木の女

樹木の太い幹がうねりながら空に伸びている。その地上の豊かな緑をがっしり支えるのが根っこなのだ。そこがいちばん大事な所。清々しさが出ていなくちゃならないのが足元なのだ。今夜は雨の降る中、アトリエに車で出かけて2時間ほど彫って来た。背の高いすらっとした女の人に見える。植物を見ている時に人は人間のことを想っているのだそうな。内的な思考は外界をすっ飛ばして直接石に刻まれる。(K)

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波打ち際

光にも波打ち際があることに気が付いた。照らされているものは眩しくて見えない。光の直ぐ傍にあるものが輝いて見えるのだ。そう思うと面白くて、それまで苦しかった垂直彫りがずんずん進んだ。夢中になり過ぎて石の厚みの限界を忘れないように、ときどきノミもハンマーも細いもの軽いものに持ち替える。だんだん核心に近づいているのが意識されると力が自然と湧いて来る。(K)

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日の当たる足

最近足をよく洗うようになった。指の間や足の裏や踵をゴシゴシ洗っていると、なんだか愛おしくなる。今までこんなに足に注目したことはなかったな。忙しいときなんか、シャワーを浴びながら互いの足を擦り合わせてそれでよしとしていた。靴下だってそうだ。白い靴下を手洗いするとさっぱりとして気持ちが良い。化粧はしなくてもいいから足はよく洗った方がいい。きっといいことがある。スフィアが変わるよ。(K)

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切れ味の良いノミ

叩いて尖らせる作業が終わって、これから焼き入れをするところだ。

コークスを足して送風をやや強めにして火力を上げる。白熱したノミを水で急速冷却すると鉄の中の炭素がキュンと締まって行儀よく並ぶから硬くなる。そういう図を頭の中にずっと思い描いてこれまでやって来たが、今日ほど上手く焼き入れ出来たことはなかった。ノミの先端をグラインダーで軽くテーパーを付けて削っておくと、切れ味が良くなって長持ちする。

送風を止めてヤカンを炉にかけた。すぐにシュンシュンと沸いて来た。サンドイッチ食べながら休憩。山から引いている水をフイゴの火で沸かして淹れた紅茶は、いつも美味しい。(K)

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雨滴

石の柱に刻んだ雨を正確に真っ直ぐ地上に落とすには曖昧な凹凸を削らねばならず、今日は覚悟を決めて取り掛かった。今までずっと放ってあったのはこれ以上彫り進む自信がなかったのだ。10年の間に石の振動と音で石の反応が分かる様になっていた。一番軽いハンマーで角度と方向を変えながら上から下に向かって彫り進んだ。何もない空間が雨滴を包んで降りてくる。(K)

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光る梢

夜の黒い梢の中に月が入っている。闇と光を交互に彫ればいいのだ。シンプルな繰り返しの中にはいつも美しいものが潜んでいる。奇異なものを抑えて削って、寡黙なものを表に引き出す。梢と雲の違いが彫れるようになった。そう思って彫っているとだんだんそうなるというのが本当の技術だろう。(K)

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木の中の月

今日は月を彫り起こした。梢の向こうから照らす月だ。

月は雲に虹の輪を作るけれど、木の中でも虹色の光線を出す。そんな光景を一度だけ見たことがある。この家の西の窓から見える小さな尾根の上に虹色に発光するものがあった。もしかしたらUFOかも!と、じっと見つめていたら、梢から出て来たのは月で、すぐに山に沈んだ。

あの尾根のことをうちでは『天使の峰』と呼んでいる。リッヂ状に切り立った細尾根を犬と一緒に突端まで踏破したことがある。崩れやすいので最近は行かないけれど、あれはきっと人工的に作られた地形だ。山の向こう側は砕石用の石を掘っている工場があるからあちこち抉られている。山の表側と裏側の風景が全く違う山なのだ。

秋になって月の軌道がだいぶ高くなって来た。空気も澄んでいる。涼しくて気持ちが良いのでつい遅くまで起きて遊んでいる。良い夏を通った秋はきっと美しいよ。(K)

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